第15回を迎えた「中国文化の日」公演。今年は、以前から観客からのリクエストが多かった中国四川省の伝統演劇―川劇が選ばれた。10月15日から17日までの3日間、川劇俳優養成学校の名門―四川省川劇学校を迎え、1日1回の一般公演を計3回、会館近隣の小学校の子供達を対象とした招待公演1回が開催された。
川劇は、中国映画「変面―この櫂に手をそえて」で注目を浴びたこともあり、中国の伝統演劇の中でも日本での知名度は高い。座席は受付開始初日に瞬く間に定員に達し、当日も立見席を求めて開演数時間前から並ぶ人の列で、会場前のロビーは埋め尽くされた。客入りの多さは予想していたものの、改めて“川劇”の人気の高さを実感した。
プログラムは、いくつかの川劇の代表的な伝統演目の一幕を、合間に色鮮やかな群舞を挟みながら繋ぎ合わせた構成。始まりは、恋心を抱いた尼とそれをからかう船頭の話。二人の息のあった動きは、観客にあたかも二人が舟上にいるかのように錯覚させた。次は、妻に無理難題を押し付けられしぶしぶ命令に従ううだつの上がらない夫が登場。頭に載せた蝋燭の火消さないようにイスの下を行き来する高度な芸などを随所に織り込みながら、観客の笑いを誘ったかと思えば、今度は、殺したはずの妻の情念に怯え、ついには発狂して命を落とす男の話へと切り替わる。なんとも凄みのある迫真の演技に観客はぐいぐいと引き込まれていった。
しかし、圧巻はなんといってもフィナーレを飾った“変面”だ。面が一枚一枚変わるたび、観客から沸き起こる歓声も高まる。会場の熱気の押されるかのように、役者も連続3回の早変り、ついには手を使わず正面を向いたままでの変面も披露。これには観客も度肝を抜かれたようで、一瞬の静寂を経て割れるような拍手と歓声が会場を埋め尽くした。アンケートにも「まるで魔法のよう」な変面への絶賛が相次いだ。まさに、古来より「上流階級から庶民まで気軽に楽しめる“雅俗共賞”な演劇」として人気を集めた川劇の特徴が表れた構成で、短期間でこのような素晴らしいプログラムを考えてくださった川劇学校には心から感謝したい気持ちで一杯だった。