公益財団法人 日中友好会館 JAPAN-CHINA FRIENDSHIP CENTER
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総合交流部
  第十一回都道府県教育訪中団 上海、南京、西安、北京を訪問  
 

32都道府県教育委員会からの参加
「日中平和友好交流計画」に基く「第十一回都道府県教育訪中団」一行は、中日友好協会の招きで、10月20日から29日まで上海、南京、西安、北京を訪問し、各地で学校参観や教育界との意見交換などを通じて、中国の教育をはじめ、政治、経済、歴史・文化などについての理解を深め、21世紀の日中関係が友好的であることの重要性を認識して帰国した。一行は小関洋治和歌山県教育長を団長、仲宗根用英沖縄県教育次長と谷島英一茨城県教育次長を副団長に、32の都道府県教育委員会幹部が参加、10月27日からは北京の日程にのみ林義郎当財団会長も団の顧問として参加した。

本年は大型台風の相次ぐ襲来で、団が出発する当日も台風23号が本土に上陸したが、20日午前中の成田出発便は危機一髪のところで飛び立ち、無事に上海浦東空港に着陸した。また、訪中期間には新潟で震度7の強震が発生、衛星放送のニュースで新潟の被災者の模様に心を痛めながらの旅行であったが、エネルギーに満ちた中国各地の様子に目を見張り、かつ朝早くから夜遅くまで充実したスケジュールを元気にこなして、訪中活動は成功裡に実施された。
訪中に先立って開かれた結団式では、林会長から「1973年3月日中国交正常化実現の翌年の3月に訪中したときは、北京の町に地下壕があった。あれから30年が経過、経済関係は大きく変ったが、それとともにトラブルも増えている。いま日中双方は互いに友好を考えるべきだ。特に、若い人々の教育についてはまだ多くの仕事がある。相互交流を通じて相互理解が深まることを期待している」との壮行の辞を伺った。

格差問題の深刻さが浮き彫りに
訪問先では、上海長寧区教育局幹部、江蘇省教育庁幹部、陝西省教育庁幹部、北京市教育委員会幹部との間でそれぞれ教育懇談会が行われた。また、上海市少年宮、南京市第四中学校、陝西省西安中学校、北京景山学校を訪問し、それぞれ授業や施設の参観をした。日本が教育改革の最中にあるため、日本側の関心はどうしても中国の教育行政と学校の管理システムの変化にあり、懇談会は日中双方が教育改革の流れやその実状をさぐる情報交換の場になった。

上海長寧区では、宿題が多くて生徒の負担の大きい教育からの脱皮が模索されており、創造力の養成と総合的な能力の育成に力点をおいた授業内容や教科書の改革が行われている由。9年の義務教育はすでに達成され、高校進学率は95%、高卒者の高等教育機関への進学率は85%になっている。
江蘇省は広東省とともに15年間をかけて義務教育の徹底を図った。高校進学率は85%。96年からは大学教育の普及に努めた結果、大学が111校、在学生が105万人と、中国の省ではナンバーワンとなっている。しかし、地域格差(南部と北部、都市部と農村部)と学校間格差が大きく、貧困人口や流動人口が教育を受ける機会がないことと、多くの学校が従来のエリート教育にこだわって、教育の普及に関心がないのが大きな悩みであるという。

陝西省は国家の重点教育地点ではあるが、人口3、600万人のうち79%の人口が農業人口で、23の県は国家から貧困地域として指定をうけた地域でもある。義務教育の普及率は89.9%だが、いまは高校教育の普及に力点をおいている。大学進学率は17.6%で、75校の大学のうち25校は民営校。日本語を学び日本の大学との交流を活発化しようという動きが起きているという。
北京市は93年に9年の義務教育を達成し、98年から高校進学率が高くなり、大学進学率は53%となっている。義務教育は元は有料であったが、現在は無料で農村地域や貧困家庭も2002年から無料になった。市の初等教育改革の重点は、「教育とは人を育てることである」という教育理念に立ち、模倣から創造力と実践能力への転換に力を入れ、そのためにカリキュラムと教授法の改革に取り組んでいる。今回参観した景山学校は教育内容も施設も整った実験校なので、多くの進学希望者がいるが入学できない。北京市では将来このような高いレベルの学校を80カ所建設する予定である。「人を育てる」教育は学校のみではできない。地域や親の協力が大切なので、市は親たちの勉強会も開いている。また、義務教育段階での評価システムをつくって、成績だけの評価ではなく、保護者や地域からの意見も聴取して学校運営を図っている。

また、北京では教育部の張秀琴国際合作交流司副司長を表敬した。張副司長は、99年から日本外務省の招聘で、毎年100名の高校生を派遣していること、2002年から文部科学省の招聘で、100名の教師を派遣していることを紹介した。また、団員からは各地で見聞した教育事情に関する質問が活発に出て、張副司長が説明した。特に農村と都市の格差、貧困層への教育普及資金援助は中国にとって大きな問題であること、農村部の問題は深刻で、昨年農村教育会議が開催され、中央政府は地方政府とともに教育環境の改善に取組むことを決めたが、問題は深刻で解決への道のりは遠いことを示唆した。

中国外交部武大偉副部長との会見
北京での日程の最後は、帰国日の早朝8時から約1時間にわたる武大偉外交副部長との会見であった。武副部長は、時期を同じくして訪中していた当財団の後藤田名誉会長と唐家璇国務委員との会見内容に触れ、「この教育界の交流計画については財団法人として今後も継続事業としたいと述べたところ、唐国務委員は中国国務院も歓迎すると表明した」と紹介した。
続いて、国交正常化の時の台湾問題と歴史問題についての日中政府間のやりとりを紹介し、「歴史問題についての私の認識は国交正常化の折の政府間の交渉で決着解決済みというものだが、1982年靖国神社にA級戦犯が合祀されたときから、再び両国には歴史問題をめぐる問題が発生した。85年に公式参拝をした中曽根総理は1回きりで止め、その後の内閣もタイムリーに処理してきたので大きな問題にはならなかった。

ところが、最近の2年間は、首相の靖国神社参拝問題が大きな問題となり、両国首脳の相互交流が途絶えたということは残念なことである。この問題は原則問題でもあり、当面の中日関係は憂慮せざるをえない状態だ。フランスやロシアとの関係は先般大統領が訪中してより大きく前進した。カンボジアやタイ、マレーシアなどアジア諸国との関係も進展しているのに、私が日本から帰任してみると、日本と中国との関係は、他国と中国との関係に比較してはるかに立ち後れてしまった、というのが実感だ。今後日本はこの影響を受けざるをえないと思うが、双方はうまく解決すべく努力することが大切である」と述べ、政治問題による今後の日中関係の冷え込みを憂慮しているとともに、日本の政治関係者がこの現状を厳しく受け止めるべきだという、全体的に警告的なトーンでの発言であった。

一行は、南京で大虐殺記念館を、北京で芦溝橋中国人民抗日戦争記念館を参観し、「歴史を鑑とし、未来に向かう」という言葉の意義を考察してきただけに、日中間を憂慮する武副部長との会見は両国における歴史問題の大きさについて再認識させられるものであった。
なお、上海市では人民対外友好協会陳一心副会長、南京では江蘇省対外友好協会呉錫軍会長と周稽裘教育庁副庁長、西安では陝西省教育庁座瑜副庁長、北京では中日友好協会の陳永昌副会長主催による盛大な歓迎宴が催された。
(2004.10 日中歴史研究センター)

 
 
工学科の学生が作ったロボットを
見学(西安中学校)

武大偉 外交部副部長(右)と会談中の
林義郎当財団会長(左)
 
 
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