当財団と(財)かながわ学術研究交流在団は2008年3月2日(日)、地球市民かながわプラザにおいて、共催で「日中文化講座」を開催した。
第15回目となる今回は、国際的に高い評価を得ている中国映画がテーマ。中央大学文学部の飯塚容教授と(株)オフィス北野の市山尚三プロデューサーの2名を講師に迎えた。1990年代から2000年以降の主要作品から読み取れる社会的背景等の解説に、集まった約75名の参加者は聞き入っていた。
90年代の中国映画の特徴の一つは、チャン・イーモウ(張芸謀)やチェン・カイコー(陳凱歌)らに代表される“第5世代”と呼ばれる監督の活躍だ。この世代は文化大革命時に下放された経験を持ち、そこに端を発する高い歴史意識に基づいた現代中国社会を凝視する作風にも如実に表れている。
日本でも有名なチェン・カイコー監督作『さらば、わが愛』を例に挙げると、激動の中国現代史、京劇など中国文化の魅力、北京の風俗・習慣を、観客は鮮烈な映像美から効果的に捉えることができる。チャン・イーモウ監督作『活きる』の原作(余華・著)日本語訳も手がけた飯塚教授は、第5世代の作品について、「中国を知るための良いテキストになる」と評価した。
スケールの大きさと鮮烈な映像美が持ち味である第5世代の作品に対して、第6世代に分類される監督による2000年以降の作品には、都市の若者を主人公にした身近な題材が多い。この世代は文革の影響が希薄で、多感な時期にはすでに外国から伝わってくる多彩な文化に触れる機会に恵まれていた。ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督作『世界』『長江哀歌』などの製作を手がけた市山プロデューサーは、第6世代の監督を「自分の撮りたい作品を撮っている」クリエイターであると分析する。
同監督による2004年の作品『世界』は、北京郊外のテーマパーク「世界公園」が舞台である。ここでショーを盛り上げるダンサーや、それを取り巻く登場人物はみな地方出身の若者。映画は、“世界の縮図”で働きながらも、実際の世界とは遠いところで生きざるを得ない若者の心の痛みとともに、様々な人々が集まる北京の今を切り取っている。小さな個人の日常を追いながら、その背景にある大きな社会の動きを映し出している点が、第6世代監督作品の特徴とも言える。
今回は、例年に比べて若い参加者の姿が目立った。講演後に設けられた質疑応答コーナーでも、「中国の映画をプロデュースする苦労は?」、「最近公開されたお薦めの映画は?」など参加者より熱心な質問が寄せられ、幅広い層からの中国映画に対する関心の強さを再確認した。(総合交流部)